【診療部長は管理監督者に当てはまるのか?!】 「名ばかり管理職」に潜む未払いリスク

「医師の働き方改革」への対応が進む中、多くの医療機関で労働時間の管理方法が見直されています。
しかし、大規模なシステム導入や「年960時間」の上限規制ばかりに目が向き、足元の「未払い残業代リスク」を見落としていませんか?

特に医療現場には、長年の慣習として定着してしまっている「2つの大きな落とし穴」があります。 これらを放置していると、労働基準監督署の調査が入った際、あるいは退職した職員から訴えられた際に、数百万〜数千万円規模の未払い賃金を請求される可能性があります。

今回は、病院経営を揺るがしかねない「名ばかり管理職」と「隠れ残業」の問題について解説します

1. 診療部長や看護部長は、本当に「管理監督者」ですか?

多くの病院では、診療部長や看護部長、事務長といった役職者に対して、「管理職だから残業代は出ない(役職手当のみ)」という扱いをされています。 しかし、「これまでの慣習」と「もっともらしい名称(役職)」による運用は極めて危険です。

そもそも、労働基準法上の「管理監督者」とは?

まず、「管理監督者」と認められると、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の規制が適用されなくなります。 つまり、病院側は(深夜割増分を除き)時間外手当や休日手当(いわゆる残業代)を支払う必要がなくなります。

労働基準法における「管理監督者(残業代の支払い対象外)」と認められるハードルは、皆様が想像する以上に高いものです。単に「部長」という肩書があるだけでは認められません。

【管理監督者かどうかの判断基準(例)】
役職名(部長、科長、院長)にかかわらず、以下の実態をすべて満たす必要があります。

  • 経営への関与
    経営者と一体となって、採用や配置転換などの重要な決定権を持っていますか?
    病院の経営方針、採用や人事、予算編成などに深く関与していることです。
  • 労働時間の自由
    出退勤の時間を自分の裁量で決められますか?(遅刻や早退で給与が引かれていませんか?)
    タイムカードで出勤・退勤の時刻を記録することは必要ですが、自身の出退勤時間や勤務時間を、自らの裁量で自由に決められることを意味します。
  • 待遇
    一般職員と比較して、管理職にふさわしい十分な待遇(給与)を受けていますか?
    「○○部長に昇任したら以前より給与が下がった」という、残業代が支払われる一般職員のほうが賃金が高くなる「逆転現象」が起きていないかは点検しやすいところです。

もし、「シフト制で時間が拘束されている」「採用の決定権はない」という状態であれば、法的には「管理監督者」と認められず、過去に遡って割増賃金(残業代)の支払いを命じられるリスクがあります。

よくある事例~院長・診療部長を比較~

①院長の場合
 ✔医療法人の理事長を兼務している場合
  そもそも「労働者」ではなく「経営者(使用者)」ですので、労働基準法は適用されません。
 ✔いわゆる「雇われ院長」の場合
  病院全体の経営を任されていることも多く、上記の3要件(特に経営への関与と労働時間の裁量)を満たす場合は管理監督者と認められる可能性が高いです。

②診療部長の場合
 ✔管理監督者と認められにくい(否定される)ケースが多いと思われます。
  (経営との一体性)診療科のトップであっても、病院「全体」の経営方針決定にまで関与しているケースは少ない。
  (労働時間の裁量)手術や外来のスケジュールが厳格に決まっており、自身の裁量で出退勤を自由に決められる実態がないことが多い。

2. 「着替え」や「申し送り」も労働時間です

未払いリスクとして、もう一つ触れておきたい問題があります。それは、現場スタッフの「ちりつも残業(隠れ残業)」です。
医療現場では、以下のような時間が「労働時間」としてカウントされず、切り捨てられているケースが散見されます。

  • 制服への着替え時間
    「着替えてからタイムカードを打刻」していませんか?
    (※制服着用が義務の場合、着替え時間は原則として労働時間です)
  • 始業前の掃除・準備
    始業時刻の15分前に来て掃除や準備をすることを「暗黙の了解(強制)」にしていませんか?
  • 勤務後の申し送り
    タイムカードを切った後に、引継ぎや日報作成を行っていませんか?

これらはすべて「労働時間」とみなされる可能性が高いものです。 「1日10分程度だから…」と甘く見てはいけません。従業員50人分、過去3年分(時効)となれば、その請求額は莫大なものになります。 また、労働時間の集計を「15分単位」や「30分単位」で切り捨てて集計することも、現在は違法(原則1分単位)とされています。

慣習を見直し、足元からリスク対策を

「昔からこうだったから」「他の病院もやっているから」という言い訳は、もはや通用しません。
医師の働き方改革によって労働時間の管理が厳格化された今こそ、これまでの「あいまいな運用」を清算するタイミングです。

  • 役職者の権限と待遇の見直し
  • タイムカードの打刻ルールの適正化(着替え時間の扱いなど)

これらは、職員との信頼関係を守るためにも不可欠な取り組みです。

社会保険労務士事務所ベイプラスでは、医療機関特有の勤務実態を踏まえた上で、「管理監督者性の診断」や「就業規則・賃金規程の見直し」をサポートしております。

当事務所では、医療機関での勤務経験(事務職・DMAT等)を持つ社会保険労務士が、現場のリアリティを踏まえた実務的なサポートを行っております。 労務リスクに不安をお持ちの経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。

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