「復職後の再発を防ぐ」~病院が絶対にやるべき“ならし運転”のルール
責任感の強い職員ほど危ない。
「人手が足りないから、早く戻ってきてほしい」 「本人が『もう大丈夫です』と言っているから、来月から夜勤に入ってもらおう」
メンタルヘルス不調で休職していた職員が復帰する際、このような判断をしていませんか?
実は、医療機関におけるメンタルヘルス対応で最も多い失敗は、休職そのものではなく、「復職後の再発(リライト)」です。
現場の忙しさや本人の焦りから、完治していない状態でフルタイム復帰させ、結果として数ヶ月で再休職、あるいは退職に至るケースが後を絶ちません。
これは病院にとって、採用コスト以上の損失となります。
今回は、職員を守り、かつ組織としての法的リスクを回避するための「正しい復職のステップ」について解説します。
1. 主治医の「復職可」を鵜呑みにしてはいけません
よくあるトラブルの原因が、主治医の診断書と現場が求めるレベルの「ギャップ」です。
主治医が書く「復職可能」の診断書は、多くの場合「日常生活が送れるレベル」を指しています。
しかし、医療現場は人の命を預かる緊張感の高い職場です。「朝起きてご飯が食べられる」レベルと、「夜勤をこなし、急変対応ができる」レベルには天と地ほどの差があります。
したがって、病院側は「主治医がOKと言ったから」だけで復職を認めてはいけません。
「産業医の面談」や「病院が定めた復職基準(例:通勤練習ができる、〇時間座って作業ができる)」をクリアしているか、厳格に確認する必要があります。

2. いきなり現場に戻さない。「試し出勤」の活用法
再発を防ぐために最も効果的なのが、「試し勤務(リハビリ出勤)」制度の導入です。
試し出勤とは、正式な復職前に、「休職を継続したままの身分」で、徐々に通勤や業務に慣れさせるためのステップのことです。
【医療機関でのステップ例】
- Step0(模擬出勤): 図書館やカフェに通い、決まった時間に活動できるか確認する。
- Step1(通勤訓練): 制服に着替えず、病院まで通勤し、短時間(午前中のみ等)事務作業や軽作業を行う。
- Step2(ならし勤務): 制服を着て、日勤帯のみ・残業なし・患者担当なし(フリー業務)から開始する。
「図書館やカフェに行くなんて、普通できるでしょ?」
そう感じた方もいると思いますが、そうです。「普通ならできる」「できて当たり前」なんです。
しかしながら、「朝、電車に乗って通勤する」これができないから病気なんです。治療が必要なんです。
なので、『図書館やカフェなど不特定多数の人がいる環境に身を置くこと』ができるかどうか、やってみなければ分かりません。
紛争予防に役立つ「試し出勤制度」の3つの機能
復職前に、この期間を設けることで、本人は自信を取り戻し、現場スタッフも「どの程度任せていいか」を見極めることができます。
そして人事担当者においては特に重要なのは、この期間中の「給与や処遇」をあらかじめ規程(ルール)で決めておくことです。
「リハビリ期間は無給(傷病手当金の継続)とするのか、給与を支払うのか」が曖昧だと、後々トラブルになります。
これは就業規則等に明記することで、紛争予防策として機能します。
- 「客観的な証拠」の取得
毎日、出勤時間、業務内容、疲労度などを記録させ、主治医や産業医、管理監督者が情報を共有します。
これにより、「この人は〇〇の作業は可能だが、〇〇時間以上は困難」という客観的な評価の証拠が残ります。 - 再休職の「言い訳」を排除
もし試し出勤中に体調が悪化した場合、「まだ復帰には早かった」という明確な事実が労使間で共有できます。
無理に復職させた後に再休職させるよりも、労使間の不信感や紛争リスクを大きく低減できます。 - 復職後の配置転換の根拠
試し出勤で「元の職場ではストレスが強すぎる」と判明した場合、会社は配置転換や時短勤務などの柔軟な措置を提案する根拠となります。これにより、再発防止に向けた会社の配慮を具体的に示せます。
スムーズに進んでいる時こそ、適切な記録を心がけましょう。
上手くいかないとき、相手を攻撃する理由はいくらでも出てきます。
紛争になったとき、客観的な証拠が非常に有用です。適切な記録の積み重ねが、後々自分を守る盾になります。
3. 「医療安全」を守るための復職判断
メンタルヘルス不調からの復帰直後は、どうしても集中力や判断力が低下している場合があります。
無理に復職を急がせることは、ご本人の健康だけでなく、「医療事故(インシデント)」のリスクを高めることにも直結します。
「まだ早い」と判断する勇気も、病院経営における重要な安全管理の一つです。 そのためには、「復職の最終決定権は、主治医ではなく会社(病院)にある」ということを就業規則にはっきりと明記しておく必要があります。
復職は本人が決めるものではありません
従業員は、「2週間の自宅療養を要する」と診断書を出せば仕事が休める。そして会社側は、診断書に則り、病気休暇(療養休暇)を認め、休ませる。
2週間後に、「引き続き1カ月の療養を要する」の診断書が提出され、休暇の延長・・・。これを繰り返して休職に突入。
メンタル不調の休職者に悩む会社では、往々にしてこのような状態です。
では復職の際はどうでしょうか?主治医の「就業可能」との診断書だけで復職させるのでしょうか?
これはあくまで従業員の希望であり、復職させるかは組織として対応する必要があります。
急がば回れ。「復職規程」の整備を
人手不足の現場において、即戦力の復帰は喉から手が出るほど欲しいものです。 しかし、焦って復職させ、再発して退職されてしまえば、それまでの治療期間も教育コストもすべて無駄になってしまいます。
「急がば回れ」の精神で、しっかりとしたリハビリ期間を設けることが、結果として長く働いてもらうための近道です。
社会保険労務士事務所ベイプラスでは、医療機関の実情に合わせた「休職・復職規程の作成」やトラブルを防ぐための「リハビリ出勤の制度設計」をサポートしています。
「休職中の職員がいるけれど、どう戻せばいいか悩んでいる」という管理者様は、復帰判断を下す前にぜひご相談ください。

